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セルフレジは、なぜ店員さんを走らせるのか

10月3日
読了時間: 6分

更新日:10月4日

──「お取り扱いできません」から考える、人手不足とDX


スーパーやコンビニのセルフレジは、基本的に無口です。

こちらが何をしても、言うことはだいたい決まっています。「バーコードをお読み取りください」「お取り扱いできません」「そのままお待ちください」。せいぜい十数種類のセリフで、毎日何百人、店によっては何千人ものお客さんをさばいている。考えてみれば、なかなかの名優です。

そこで今回は、このセルフレジのセリフを順番に借りながら、人手不足とDXについて考えてみたいと思います。先にお断りしておくと、私は読み取りに失敗して店員さんを呼ぶ側の、わりと常連です。


「商品のバーコードをお読み取りください」


まず数字を見てみます。ある調査では、この1年でセルフレジを使った人は86.9%。店舗側の導入率も55.5%と、すでに半数を超えています。

日本のレジは、いつの間にか「お客さんが自分でやる」ものに変わりつつあるわけです。

しかも、その形はひとつではありません。商品の読み取りから支払いまで全部自分でやる「フルセルフ」。読み取りは店員さん、支払いだけ自分でやる「セミセルフ」。スーパーでは、この二つが並んでいることも珍しくありません。

お客さんは、その日の買い物の量や急ぎ具合で、無意識にレジを選び分けています。

面白いのは、誰も使い方を習った覚えがないことです。店の人に「こちらをお使いください」と案内されたわけでもないのに、みんな当たり前のように並び、ピッとやって帰っていく。説明がいらないものほど、普及は速い。これは技術の力というより、習慣づくりのうまさだと思います。


「お取り扱いできません」


何度か読み取りに失敗すると、機械はきっぱりこう言います。

「お取り扱いできません」。

夕方のスーパーで、値引きシールの貼られたお惣菜を通したときなどは、かなりの確率でこれを言われます。

冷たいようですが、よく考えると誠実です。できないことを、その場ではっきり言う。ごまかさない。しかも、なぜできないのかの説明はしない。そこは店員さんに任せている。機械と人の役割分担としては、実によくできています。


ここで思うのです。


正社員の人手不足を感じる企業が51.3%という時代に、現場で本当に必要なのは「何でもできる人」より、「お取り扱いできません」と言われたときに駆けつけてくれる人なのではないか、と。

実際、セルフレジを使わない理由の第1位は「操作方法がわからない」(35%)です。およそ3人に1人が、教えてくれる人を待っています。その役目を担っているのが、セルフレジの間を小走りで行き来する、あの店員さんです。


「袋はお持ちですか」


この質問、さりげないようでいて、なかなか鋭い。

持っていない人のために、機械はなにも用意してくれません。「持ってきて当然」という前提で作られています。持ってきていない人は「有料袋を買う」という無情の選択肢を突き付けられます。

思えばレジ袋の有料化も、「袋を用意する仕事」をお客さんにお返しした出来事でした。最初はぶつぶつ言っていた人も、今では当たり前のようにエコバッグを持ち歩いています。そういえばスーパーでは、袋詰めはずっと前からお客さんの仕事でした。サッカー台で卵を一番上にそっと置く、あの作業です。

セルフレジは、その流れをもう一歩先へ進めました。商品を読み取る、袋に詰める、支払う。かつて店員さんがやっていた仕事が、少しずつお客さんの手元に配り直されています。人手不足の時代とは、こういう「小さな仕事の配り直し」が進む時代なのだと思います。


「そのままお待ちください」


有人レジの不満の第1位は「待ち時間が長い」(47.3%)。一方、セルフレジの不満は「読み取りエラー」だそうです。

つまり機械は、待ち時間をなくしたのではありません。「列に並んで待つ」を「エラーで止まって待つ」に変えただけなのです。お酒を買うときの年齢確認で止まるのも、同じ種類の待ち時間です。どう見ても成人の私でも、きちんと止められます。

しかも、エラーで止まる待ち時間はちょっとつらい。列なら「前の人が多いから」と言い訳できますが、エラーは自分の手元で起きています。カゴいっぱいの夕方のスーパーならなおさらです。後ろの人の視線を背中に感じながら、ただ店員さんを待つしかありません。

ところが、そこへ店員さんが「大丈夫ですよ」と小走りで来てくれると、不思議なことに、そのお店の印象はむしろ良くなります。私はそういう店を「親切な店」として覚えています。ブランドは、便利さだけでは決まりません。困ったときに誰が来てくれるかで決まるのです。


「お支払いがまだ済んでいません」


このセリフは、そのまま経営への警告にも聞こえます。

アメリカでは、セルフレジを一気に広げた大手チェーンが、撤去や利用制限に踏み切る動きが出ています。万引きの増加や、結局スタッフの手がかかることが理由とされています。

人件費を減らしたつもりが、別のところで「お支払い」が済んでいなかったわけです。

仕事は、機械を入れたからといって消えるわけではありません。まず、別の誰かのところへ移動します。操作に戸惑うお客さんへ。エラーのたびに呼ばれる店員さんへ。レジ担当は減ったのに店員さんの歩数は増える、というちぐはぐな光景は、仕事が「減った」のではなく「動いた」ことの証拠です。


「ご利用ありがとうございました」


最後に、経営者にとってのヒントを3つにまとめます。


ひとつ目は、省人化の前に「その仕事がどこへ移るか」を地図にすることです。

機械を入れれば仕事が消える、というのは幻想です。お客さんに移るのか、残ったスタッフに集中するのか。移った先で誰かが無理をしていないかを先に確かめておかないと、効率化したはずの現場ほど疲れていきます。

ふたつ目は、「お取り扱いできません」の後ろに立つ人を、いちばん大事な人材として扱うことです。

機械が普及するほど、人に残るのは例外対応、つまり「困った」に応える仕事になります。それは単純作業ではなく、お店の印象を決める最前線の仕事です。配置も育成も評価も、そこに合わせて見直す価値があります。

みっつ目は、DXの成果を「削減した人数」だけで測らないことです。浮いた人手が、どこで、どんな顧客体験を生んでいるのか。スーパーがフルセルフとセミセルフ、有人レジを並べているのも、全員を一つの方式に寄せないための工夫でしょう。

セルフレジの本当の価値は、レジ担当を減らしたことではありません。店員さんが「困った人のところへ走れる時間」を生み出したことにあるのかもしれません。

ちなみにセルフレジは、お客さんが帰るとき、誰も聞いていなくても律儀に「ご利用ありがとうございました」と言います。こういうところは、セルフレジが苦手な私でも、正直嫌いになれません。

さて、私は今後もセルフレジを使います。

そして、たぶんまた読み取りに失敗して、店員さんを呼ぶのでしょう。

小走りで来てくれるその人こそ、お店でいちばん大事なタッチポイント(接点)です。



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